【図解】なぜラジオは混信する?
スーパーヘテロダイン受信機の「影像周波数」の謎を世界一わかりやすく解説!
「お気に入りのラジオ局を聞いていたら、なぜか別の放送がうっすら聞こえてくる…」そんな経験はありませんか?
実はその混信、あなたのラジオが見てはいけない「鏡像」を見ているせいかもしれません。
この記事では、スマートフォンから人工衛星まで、あらゆる無線通信の心臓部として100年以上も活躍し続ける「スーパーヘテロダイン受信機」の仕組みを解き明かします。そして、その最大の弱点である「影像(イメージ)周波数」という不思議な現象が、なぜ、そしてどのようにして混信を引き起こすのか、その謎に迫ります。
この記事を読めば分かること
- なぜスーパーヘテロダイン方式が無線通信に革命を起こしたのか
- 受信機内部で起こる「周波数変換」という魔法の正体とその詳細な数学的原理
- 混信の犯人、「影像(イメージ)周波数」が生まれる驚きの理由
- どうやってこの「鏡像の怪物」と戦っているのか
無線技術の初心者から、知識を深めたいアマチュア無線家まで、誰もが納得できるよう、数式や専門用語の意味を一つひとつ丁寧に、図を交えて解説していきます。さあ、無線の奥深い世界へ一緒に旅立ちましょう!
1. そもそもスーパーヘテロダインって何? なぜ必要なの?
スーパーヘテロダイン方式を理解するために、まずはそれが登場する前の世界を少し覗いてみましょう。
昔のラジオが抱えていた「ジレンマ」
初期のラジオ(TRF受信機)は、アンテナで受けた電波をそのまま増幅するというシンプルな方式でした。しかし、これには大きな問題がありました。
- 周波数によって性能が変わる: 高い周波数の放送局に合わせると、フィルターの性能が甘くなり、隣の局の電波まで拾ってしまい混信しやすかったのです。
- 増幅が不安定: 高い周波数の電波を大きく増幅しようとすると、回路が不安定になり「発振」という異常動作を起こしがちでした。
これらの問題を一挙に解決したのが、エドウィン・アームストロングが発明したスーパーヘテロダイン方式でした。
発想の大転換:「固定周波数」で処理する
スーパーヘテロダイン方式の核心は、たった一つのシンプルなアイデアに集約されます。
どんな周波数の電波を受け取っても、一度ぜんぶ「処理しやすい特定の固定周波数」に変換してから、増幅やフィルタリングを行う。
この「処理しやすい固定周波数」のことを中間周波数(Intermediate Frequency, IF)と呼びます。
この方式のおかげで、受信機の性能を左右する最も重要なフィルターや増幅器を、特定の周波数(IF)で最高性能を発揮するように設計すればよくなりました。これにより、どの放送局に合わせてダイヤルを回しても、常に安定して高い性能(特に選択度と感度)を発揮できるようになったのです。これは無線技術における革命的な出来事でした。
2. 周波数の錬金術「ミキサー」と4人の主要登場人物
スーパーヘテロダインの心臓部では、4つの異なる周波数が絶えず相互作用しています。この関係を理解することが、イメージ周波数の謎を解く鍵となります。
登場する4つの周波数
| 記号 | 日本語名称 | 説明 |
|---|---|---|
| f_R | 受信周波数 | あなたが聞きたい放送局など、目的の信号の周波数です。 |
| f_L | 局部発振周波数 | ラジオ内部で作られる、周波数を変えられる信号の周波数です。選局ダイヤルを回すとこの周波数が変わります。 |
| f_{IF} | 中間周波数 | 処理しやすいように変換された後の、固定された周波数です。AMラジオなら455 kHzが有名です。 |
| f_{image} | 影像周波数 | 目的の信号ではないのに、中間周波数に変換されてしまう「招かれざる客」。混信の直接的な原因です。 |
周波数変換の仕組み:ヘテロダイン原理
受信周波数(f_R)を中間周波数(f_{IF})に変換する魔法の箱、それがミキサーです。
(受信信号)
(局部発振)
(掛け算)
f_L + f_R (和)
|f_L - f_R| (差)
ミキサーは、入力された二つの周波数(f_R と f_L)を掛け合わせるという、非常に重要な役割を担います。この「掛け合わせる」という操作が、どのようにして新しい周波数を生み出すのか、その数学的な原理を詳しく見ていきましょう。
【詳細解説】なぜ「和」と「差」の周波数が生まれるのか?(三角関数の魔法)
少し数学的な話になりますが、ここがスーパーヘテロダイン方式の最も面白い部分です。電波は波なので、三角関数(cosやsin)を使って表現できます。
// 2つの信号を数式で表す
受信信号: V_R(t) = A_R \cos(2\pi f_R t)
局部発振信号: V_L(t) = A_L \cos(2\pi f_L t)
// ミキサーで「掛け算」を実行する
V_{out}(t) = V_R(t) \times V_L(t)
V_{out}(t) = A_R A_L \cos(2\pi f_R t) \cos(2\pi f_L t)
// 三角関数の積和公式: \cos(A)\cos(B) = \frac{1}{2}[\cos(A+B) + \cos(A-B)] を適用
V_{out}(t) = \frac{A_R A_L}{2} [\cos(2\pi(f_L + f_R)t) + \cos(2\pi(f_L - f_R)t)]
// 結果:出力には「和」と「差」の2つの周波数成分が生まれる
和の成分: f_L + f_R
差の成分: |f_L - f_R|
つまり、ミキサーは周波数の足し算と引き算を同時に行う装置なのです。スーパーヘテロダイン受信機では、このうち「差」の周波数をIFフィルターで選び出して利用します。つまり、基本となる方程式はこうなります。
この、一見単純な「絶対値」記号(| |)こそが、やっかいなイメージ周波数を生み出す元凶なのです。
3. 混信の犯人!「影像(イメージ)周波数」が生まれる瞬間
さて、いよいよ核心です。なぜ存在しないはずの「鏡像」が見えてしまうのでしょうか。
ミキサーは区別できない
先ほどの基本方程式 f_{IF} = |f_L - f_R| を思い出してください。ミキサーは、二つの周波数の「差」がf_{IF}になれば、それでOKと判断します。入力された信号がどちらだったのかを区別することはできません。
ここで、AMラジオの具体的な例で考えてみましょう。
- 聞きたい放送局 (f_R): 1000 kHz
- 中間周波数 (f_{IF}): 455 kHz (AMラジオでは標準の値)
受信機は、差が455 kHzになるように、内部で局部発振周波数(f_L)を作ります。ここで一般的なハイサイド注入(f_Lをf_Rより高く設定する方式)を採用すると、
f_L = f_R + f_{IF} = 1000 + 455 = 1455 \text{ kHz}
この時、ミキサーは1455 kHzと1000 kHzの差を取って、目的の455 kHzを作り出します。
|1455 - 1000| = 455 \text{ kHz} (OK!)
しかし、もし全く別の周波数で、1455 kHzとの差が同じく455 kHzになるものが存在したらどうでしょう?
そう、存在するのです。それが影像(イメージ)周波数です。
f_{image} = f_L + f_{IF} = 1455 + 455 = 1910 \text{ kHz}
この1910 kHzの電波がアンテナに入ってくると、ミキサーはこれも同じように処理してしまいます。
|1455 - 1910| = |-455| = 455 \text{ kHz} (これもOK!)
結果として、聞きたい1000 kHzの放送も、聞きたくない1910 kHzの放送も、どちらも同じ455 kHzの中間周波数に変換されてしまうのです。一度同じ周波数に変換されて重なってしまうと、後段の高性能なIFフィルターでも分離することは不可能です。これが「イメージ混信」の正体です。
イメージ周波数の関係図
イメージ周波数を求める公式
以上の関係から、イメージ周波数は常に以下の関係式で求められます。
この式が示す重要な事実は、イメージ周波数は、あなたが聞きたい周波数から、中間周波数の2倍だけ離れた場所に必ず現れるということです。それは、局部発振周波数(f_L)という鏡を挟んで、目的の信号(f_R)と常に対称な位置に存在する「鏡像」なのです。
4. イメージ周波数への3つの対策
この厄介な「鏡像」を消し去るため、受信機の設計者は様々な工夫を凝らしています。
対策1:用心棒を置く(RFプリセレクタ)
最も基本的な対策は、イメージ周波数の信号がミキサーに到達する前に、予め除去してしまうことです。その役割を担うのが、受信機の入口、アンテナのすぐ後ろに置かれるRFプリセレクタ(イメージ除去フィルター)です。これは、選局ダイヤルと連動して、目的の周波数(f_R)周辺の狭い範囲だけを通すバンドパスフィルターです。これはまるで、パーティー会場の入口に立つ用心棒のようなものです。
対策2:鏡を遠ざける(IF周波数の選定)
公式 f_{image} = f_R + 2f_{IF} が示す通り、中間周波数(f_{IF})を高く設定すればするほど、目的信号(f_R)とイメージ周波数(f_{image})の間の距離(2f_{IF})は離れます。距離が離れれば、用心棒(プリセレクタ)も仕事がしやすくなります。しかし、高いIFは高性能なフィルターを作るのが難しいというジレンマがあります。
対策3:二段階で変身する(ダブルコンバージョン)
このジレンマを解決するエレガントな方法が、周波数変換を2回行うダブルコンバージョン方式です。
- 第一段階(イメージ除去専門): まず、受信信号を非常に高い第一IF(例: 70 MHz)に変換します。これによりイメージ周波数は目的信号から遥か彼方に追いやられ、簡単なフィルターでも容易に除去できます。
- 第二段階(高選択度専門): イメージが除去されたクリーンな信号を、次に455 kHzのような低い第二IFに変換します。この低い周波数で、非常に高性能なフィルターを使い、隣接する邪魔な信号を徹底的にカットします。
このように、「イメージ除去」と「高選択度」という相反する要求を、それぞれ別のステージに分担させることで、両方の性能を妥協なく追求できるのです。
5. まとめ:スーパーヘテロダインの現在と未来
今回は、スーパーヘテロダイン受信機の核心である周波数変換の仕組みと、その宿命的な弱点である「影像(イメージ)周波数」について掘り下げました。
- スーパーヘテロダインは、受信周波数を固定の中間周波数(IF)に変換することで、安定した高性能を実現する画期的な方式です。
- 周波数変換を行うミキサーは、三角関数の原理により入力信号の和(f_L + f_R)と差(|f_L - f_R|)の周波数成分を生成します。
- ミキサーは受信周波数(f_R)とイメージ周波数(f_{image} = f_R + 2f_{IF})を区別できず、両方をIFに変換してしまうため、イメージ混信の原因となります。
- 対策として、入口でブロックするプリセレクタや、2回変換を行うダブルコンバージョンなどの技術が使われています。
発明から100年以上経った今でも、スーパーヘテロダイン方式は、その優れた選択度と妨害波除去能力から、高精度な計測器や衛星通信など、性能が最優先される分野で活躍し続けています。
近年では、受信したIF信号をデジタル処理するDSP-IFや、スーパーヘテロダインの強力なフロントエンドとソフトウェア無線(SDR)を組み合わせたハイブリッド方式も登場し、その原理は形を変えながら進化を続けています。
次にラジオから混信が聞こえてきたら、それはあなたの受信機が、目に見えない「鏡像」と戦っている証拠なのかもしれません。
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