クロスサイトスクリプティング(XSS)。この言葉を聞いたことはありますか? 実は、1999年から存在するWebセキュリティの脆弱性であり、今でも最も頻繁に報告されるサイバーセキュリティの脅威の1つです。IBMのレポートでは、最も影響力のある攻撃タイプとして挙げられており、OWASPのトップ10 Webアプリケーション脆弱性リストでも3位にランクインしています。 なぜ、これほど古くから知られている攻撃が、未だに私たちを脅かし続けているのでしょうか?
本記事では、Webサイトに潜む見えない脅威であるXSSについて、その仕組みから具体的な攻撃事例、そして効果的な対策方法までをわかりやすく解説します。Webサイト運営者や開発者だけでなく、インターネットを利用するすべての人がXSSの脅威を理解し、適切な対策を講じることで、安全なデジタルライフを実現しましょう。
XSSとは? – Webサイトの脆弱性を突く攻撃
XSSとは、攻撃者がWebサイトに悪意のあるスクリプトを埋め込み、そのサイトを閲覧したユーザーのブラウザ上で実行させる攻撃手法です。攻撃者は、Webアプリケーションの脆弱性を悪用し、ユーザーがWebサイトを閲覧した際に、本来のWebサイトの機能とは異なる動作をさせるようなスクリプトを埋め込みます。
XSSは、SQLインジェクションなど他の攻撃と異なり、Webアプリケーション自体を直接攻撃するのではなく、そのWebアプリケーションを利用するユーザーを標的にします。 XSS攻撃は、ブラウザが正当なスクリプトと攻撃者が作成したスクリプトを区別できないという事実を悪用し、異なるWebサイトのスクリプト間の相互作用を防ぐために設計された同一オリジンポリシーを回避します。同一オリジンポリシーが適切に適用されない場合、攻撃者はWebページを改ざんするスクリプトを挿入することができてしまいます。
攻撃者は、XSSを利用することで、ユーザーのCookieやパスワードなどの重要な情報を盗み取ったり、ユーザーになりすまして悪意のある操作を実行したりすることが可能です。具体的には、以下のような被害が考えられます。
- Cookieの盗難: Cookieを盗むことで、ユーザーのセッションを乗っ取り、Webサイト上でユーザーになりすますことが可能になります。
- パスワードの盗難: ログインフォームなどに偽の入力フィールドを挿入することで、ユーザーが入力したパスワードを盗み取ることが可能になります 。
- クロスサイトリクエストフォージェリ (CSRF): ユーザーになりすまして、Webサイト上で意図しない操作を実行させることが可能になります。
XSSの影響 – あなたのWebサイトとユーザーへの脅威
XSSの被害は、情報漏洩やアカウントの乗っ取りなど、多岐にわたります。
Webサイトへの攻撃は、以下のような深刻な結果をもたらす可能性があります。
- 機密データの漏洩: 攻撃者は、XSSを悪用してクレジットカード番号や個人情報などの機密データを盗み取ることが可能になります。
- セッションの乗っ取り: ユーザーのセッションを乗っ取ることで、攻撃者はユーザーになりすましてWebサイト上で様々な操作を行うことが可能になります。
- マルウェアの拡散: XSSを悪用して、ユーザーのコンピュータにマルウェアを感染させることが可能になります。
- Webサイトの改ざん: Webサイトのコンテンツを改ざんすることで、ユーザーに偽の情報を与えたり、Webサイトの評判を損なったりすることが可能になります。
これらの攻撃は、Webサイトの運営者だけでなく、そのWebサイトを利用するユーザーにも大きな被害をもたらします。
XSSの種類と攻撃手法
XSS攻撃には、主に以下の3つの種類があります。
反射型XSS
反射型XSSは、最も一般的なXSS攻撃です。攻撃者は、悪意のあるスクリプトを含むURLをユーザーに送信し、ユーザーがそのURLにアクセスすると、Webサイトがそのスクリプトをそのままユーザーのブラウザに返送することで攻撃が成立します。
攻撃者は、ソーシャルエンジニアリング、フィッシング、または水飲み場型攻撃などを通じて、悪意のあるリンクをユーザーに送りつけます。
例えば、攻撃者は、Webサイトの検索機能を悪用し、検索キーワードに悪意のあるスクリプトを埋め込んだURLを作成します。ユーザーがそのURLにアクセスして検索を実行すると、検索結果に埋め込まれたスクリプトが実行されてしまいます。
多くの場合、反射型XSS攻撃は、フィッシングメールや短縮URLなどを介して標的となるユーザーに送信されます。被害者がリンクをクリックすると、スクリプトがブラウザで自動的に実行されます。
貯蔵型XSS
貯蔵型XSSは、攻撃者がWebサイトのデータベースなどに悪意のあるスクリプトを保存し、そのWebサイトにアクセスしたすべてのユーザーにスクリプトを実行させる攻撃手法です。
例えば、攻撃者は、Webサイトの掲示板などに悪意のあるスクリプトを含む書き込みを行います。その後、その掲示板を閲覧したユーザーは、書き込みに含まれるスクリプトを実行してしまいます。
貯蔵型XSSは、反射型XSSに比べて攻撃が持続的であるため、より多くのユーザーに被害を与える可能性があります。
DOM Based XSS
DOM Based XSSは、攻撃者がWebサイトのDOM(Document Object Model)を操作することで、悪意のあるスクリプトを実行させる攻撃手法です。
DOM Based XSSは、サーバー側ではなくクライアント側で発生するため、サーバー側のセキュリティ対策だけでは防ぐことが難しい場合があります。
例えば、攻撃者は、WebサイトのURLに含まれるパラメータを悪用し、DOMを操作するスクリプトを埋め込みます。ユーザーがそのURLにアクセスすると、ブラウザ上でDOMが操作され、悪意のあるスクリプトが実行されてしまいます 6。
Error Page XSS
エラーページもXSS攻撃の対象となることがあります。例えば、404エラーページに、ユーザーがアクセスしようとしたURLが表示される場合、攻撃者はこのURLに悪意のあるスクリプトを埋め込むことで、エラーページを閲覧したユーザーのブラウザ上でスクリプトを実行させることが可能になります。
XSSの被害事例 – 信頼を崩壊させる攻撃
XSSによる被害は、情報漏洩やアカウントの乗っ取りなど、多岐にわたります。
ここでは、過去のXSS攻撃の事例をいくつか紹介します。
- British Airwaysの事例: 2018年、British Airwaysは、Magecartと呼ばれるハッカー集団によるXSS攻撃を受け、約38万人の顧客のクレジットカード情報が盗み取られました 14。攻撃者は、Webサイトで使用されていたJavaScriptライブラリの脆弱性を悪用し、顧客のクレジットカード情報などを盗み取るスクリプトを埋め込みました。
- Fortniteの事例: 2018年、人気ゲームFortniteのWebサイトでXSSの脆弱性が発見されました。この脆弱性を利用することで、攻撃者はユーザーのアカウントを乗っ取ったり、ゲーム内のアイテムを盗み取ったりすることができました。
- eBayの事例: 2015年から2016年にかけて、eBayのWebサイトでXSSの脆弱性が発見されました。この脆弱性を利用することで、攻撃者はeBayのセラーアカウントにアクセスし、商品を割引価格で販売したり、支払い情報を盗み取ったりすることができました。
これらの事例からもわかるように、XSSは企業や組織の評判を大きく損なうだけでなく、ユーザーに深刻な被害を与える可能性があります。 また、XSSはソーシャルネットワークワームの作成にも利用されており、攻撃の被害は広範囲に及ぶ可能性があります。
XSSの対策方法 – 多層防御で安全性を確保
XSSを防ぐためには、多層防御の考え方に基づいた対策が必要です。
ここでは、具体的なXSS対策方法を紹介します。
入力値の検証
ユーザーからの入力値を厳密にチェックし、悪意のあるスクリプトが含まれていないかを確認します。具体的には、入力値の形式や文字種などをチェックし、許可されていない文字やパターンが含まれている場合は、入力を受け付けないようにします。
入力値の検証には、ホワイトリスト方式とブラックリスト方式があります。ホワイトリスト方式は、許可する文字やパターンをあらかじめ定義しておき、それ以外の入力はすべて拒否する方式です。ブラックリスト方式は、禁止する文字やパターンをあらかじめ定義しておき、それらを含む入力は拒否する方式です。
一般的に、ホワイトリスト方式の方がセキュリティレベルが高いため、推奨されます。これは、ブラックリスト方式では、攻撃者が新しい攻撃手法を開発した場合、その攻撃に対応できない可能性があるためです。
出力値のエスケープ
Webページに動的なコンテンツを表示する際に、特殊文字をエスケープ処理することで、スクリプトとして解釈されるのを防ぎます。例えば、「<」や「>」などの文字を「<」や「>」のようにエスケープすることで、ブラウザがこれらの文字をスクリプトとして解釈するのを防ぐことができます。
エスケープ処理は、出力するコンテンツの種類によって適切な方法を選択する必要があります。例えば、HTMLに出力する場合はHTMLエスケープ、JavaScriptに出力する場合はJavaScriptエスケープを行う必要があります。
HTTPヘッダーの活用
HTTPヘッダーを利用することで、XSS攻撃を軽減することができます。
- X-XSS-Protectionヘッダー: ブラウザにXSSフィルター機能を有効にするように指示します。
- X-Content-Type-Optionsヘッダー: ブラウザがコンテンツタイプを推測するのを防ぎ、XSS攻撃のリスクを軽減します。
- Content-Typeヘッダー: 適切なコンテンツタイプを指定することで、ブラウザがコンテンツを正しく解釈するように指示します。
Content Security Policy (CSP)の導入
CSPは、Webサイトが読み込むリソースの制限を定義することで、XSS攻撃などを防ぐセキュリティ対策です。CSPを導入することで、Webサイトが読み込むことができるスクリプトやスタイルシートなどを制限し、悪意のあるスクリプトの実行を防ぐことができます。
WAF (Web Application Firewall)の利用
WAFは、Webアプリケーションへの攻撃を検知し、ブロックするセキュリティ対策です。WAFを導入することで、XSS攻撃など、Webアプリケーションに対する様々な攻撃を防ぐことができます。
HTMLデータ属性の利用
動的なコンテンツをWebページに出力する際に、HTMLデータ属性を利用することで、XSS攻撃のリスクを軽減することができます。HTMLデータ属性は、HTML要素に任意のデータを追加するための属性であり、この属性に動的なコンテンツを格納することで、スクリプトとして解釈されるのを防ぐことができます。
静的解析の実施
静的解析ツールを利用することで、ソースコードを解析し、XSSの脆弱性となる可能性のある箇所を検出することができます。静的解析は、開発の初期段階で脆弱性を発見することができるため、セキュリティ対策として有効です。
eval() の回避
eval()
関数は、文字列をJavaScriptコードとして実行する関数ですが、XSS攻撃に悪用される可能性があるため、使用を避けるべきです。eval()
関数の代わりに、textContent
や innerText
などの安全な関数を使用することで、XSS攻撃のリスクを軽減することができます。
定期的なWebサイトの利用
Webサイト運営者自身が、定期的に自分のWebサイトを利用することで、XSSの脆弱性となる可能性のある箇所を早期に発見することができます。
リメディエーション後のペネトレーションテスト
XSSの脆弱性を修正した後、ペネトレーションテストを実施することで、修正が正しく行われているかを確認することができます。ペネトレーションテストは、実際の攻撃を模倣してWebアプリケーションのセキュリティを検証するテストであり、XSS対策の有効性を確認するために有効です。
最新のXSS攻撃動向 – 進化する脅威に対抗するために
XSS攻撃の手法は常に進化しており、最新の攻撃動向を把握しておくことが重要です。近年では、以下のようなXSS攻撃の傾向が見られます。
- サプライチェーン攻撃: Webサイトで使用されている外部ライブラリなどの脆弱性を悪用する攻撃が増加しています。
- DOM Based XSSの増加: DOM Based XSSは、サーバー側ではなくクライアント側で発生するため、従来のセキュリティ対策では防ぐことが難しく、攻撃が増加しています。
- 複雑化する攻撃: 複数の脆弱性を組み合わせた攻撃や、ブラウザのセキュリティ機能を回避する攻撃など、より複雑なXSS攻撃が増加しています。
これらの最新の攻撃動向に対応するためには、従来のセキュリティ対策に加えて、以下のような対策を検討する必要があります。
- 外部ライブラリの脆弱性管理: Webサイトで使用されている外部ライブラリなどの脆弱性を定期的にチェックし、最新バージョンにアップデートする必要があります。
- DOM Based XSS対策: DOM Based XSSを防ぐためには、JavaScriptコードのセキュリティ対策を強化する必要があります。
- 多層防御の強化: 複数のセキュリティ対策を組み合わせることで、複雑化するXSS攻撃に対応する必要があります。
Specific Examples of Recent XSS Attacks
最近のXSS攻撃の具体的な例としては、以下のようなものがあります。
- ルーマニアの選挙システムへの攻撃: ルーマニアの選挙システムが、85,000件以上のサイバー攻撃を受け、その中にはXSS攻撃も含まれていました。
- Netgearルーターへの攻撃: 複数のNetgear WiFi 6ルーターモデルに、保存型XSSと認証バイパスの脆弱性が発見され、攻撃に悪用されました。
- Roundcube Webmailクライアントへの攻撃: Roundcube Webmailクライアントの脆弱性が悪用され、独立国家共同体(CIS)地域の政府機関が標的となりました。
開発者とWebサイト運営者のための追加対策
開発者とWebサイト運営者は、XSSの脆弱性を作り込まないよう、以下の点に注意する必要があります。
- レガシーWebアプリ: 過去のWebアプリケーションは、セキュリティを考慮せずに構築されていることが多く、XSS攻撃に対して脆弱である可能性があります。
- リッチテキスト/HTMLエディタ: カスタムフォントや埋め込みメディアなどを許可する機能は、貼り付けられた入力の検証が適切に行われないことが多く、悪用されやすい可能性があります。
- サードパーティとの連携: APIやプラグインを介してアプリを接続すると、検証が必要なデータフローの穴が新たに発生します。監視されていない使用やテスト不足は、これらの連携が迅速かつ容易に侵害される可能性があることを意味します。
まとめ – XSSからWebサイトを守るために
XSSは、Webサイトの脆弱性を突いて悪意のあるコードを実行させる攻撃手法であり、情報漏洩やアカウントの乗っ取りなど、深刻な被害をもたらす可能性があります。
XSSを防ぐためには、入力値の検証、出力値のエスケープ、HTTPヘッダーの活用、CSPの導入、WAFの利用など、多層防御の考え方に基づいた対策が必要です。
また、XSS攻撃の手法は常に進化しているため、最新の攻撃動向を把握し、適切な対策を講じることが重要です。
Webサイト運営者や開発者はもちろんのこと、インターネットを利用するすべての人がXSSの脅威を理解し、セキュリティ対策を強化することで、安全なデジタル社会を実現しましょう。
この記事で紹介した対策方法を参考に、XSS攻撃からWebサイトを守り、ユーザーの安全を守りましょう。
たび友|サイトマップ
関連webアプリ
たび友|サイトマップ:https://tabui-tomo.com/sitemap
けん友:https://kentomo.tabui-tomo.com
ピー友:https://pdftomo.tabui-tomo.com